母のうた
「母のうた」
(2020年2月9日作)
老人ホームに入居する日の朝
空はすっきりと晴れていた
私の心と真逆の美しい青が広がっていた
ワゴン車の後ろの席には荷物と私
運転席には私の息子が乗りこんだ
「シートベルト ちゃんとしてよ」
と、警告する息子に「ハイハイ」と生返事
いつから息子は私に命令するようになったのやら
昔はいたずら坊主で手のかかる少年だったのに
今 その息子の頭には白髪が無数に生え、
顔にはほうれい線がくっきりと刻みこまれている
老人ホームは いわば現代の姥捨て山ね
と、息子に皮肉を言いたくなった
車窓から見える景色が
見慣れた町から田んぼだらけの風景へと変わっていく
老人ホームに近づくにつれて
不穏になる心をなだめるように
小さな声で歌を歌った
それは息子によく聞かせた
なつかしい子守歌
小さな息子を背負いながら
何度も歌った子守歌
息子はこの歌を覚えているだろうか?
ちらりと前方を見やると、
息子はハンドルを握りしめたまま
微かに震えているようだった
今の私はまるで
息子に背負われ山へ捨てられる
姥捨て山の老婆そのものね
と、そんな皮肉も思い浮かんだけど
私は何も言わなかった
無言の代わりに子守歌を歌った
これは年老いた私のささやかな抵抗
微かな嫌がらせ
意地悪なおばあさんになった私は
老人ホームに到着するまで
その子守歌をずっとずっと歌い続けていた
(2020年2月9日作)
老人ホームに入居する日の朝
空はすっきりと晴れていた
私の心と真逆の美しい青が広がっていた
ワゴン車の後ろの席には荷物と私
運転席には私の息子が乗りこんだ
「シートベルト ちゃんとしてよ」
と、警告する息子に「ハイハイ」と生返事
いつから息子は私に命令するようになったのやら
昔はいたずら坊主で手のかかる少年だったのに
今 その息子の頭には白髪が無数に生え、
顔にはほうれい線がくっきりと刻みこまれている
老人ホームは いわば現代の姥捨て山ね
と、息子に皮肉を言いたくなった
車窓から見える景色が
見慣れた町から田んぼだらけの風景へと変わっていく
老人ホームに近づくにつれて
不穏になる心をなだめるように
小さな声で歌を歌った
それは息子によく聞かせた
なつかしい子守歌
小さな息子を背負いながら
何度も歌った子守歌
息子はこの歌を覚えているだろうか?
ちらりと前方を見やると、
息子はハンドルを握りしめたまま
微かに震えているようだった
今の私はまるで
息子に背負われ山へ捨てられる
姥捨て山の老婆そのものね
と、そんな皮肉も思い浮かんだけど
私は何も言わなかった
無言の代わりに子守歌を歌った
これは年老いた私のささやかな抵抗
微かな嫌がらせ
意地悪なおばあさんになった私は
老人ホームに到着するまで
その子守歌をずっとずっと歌い続けていた
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