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私が今まで書いてきた詩を掲載しています。 無いとは思いますが、無断転載(盗作)、複製等は禁止です。 閲覧者様の暇つぶしになれたら幸いです。

なきごえ

「なきごえ」
 (2026年4月2日作)

職場のフロアの真ん中にある
おんぼろのシュレッダーは
ときどき泣いている

たくさんの不要な書類を
飲み下した後で
キィキィと小さな声で泣いている

こき使われて疲れたか
長い年月無理をしてきたか

たまにストを起こすそのシュレッダーは
シュレッダーなりの反抗を
試みているのかもしれない
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声音

「声音」
 (2026年4月2日作)

両耳をイヤホンでふさぎ
適当に音楽を聴いているのは
かき鳴らされる静寂が
あまりにもうるさいからだ

気まぐれにシンクに落ちる
水道の蛇口からの水滴の音
絶え間なく室内に響く
冷蔵庫の低く無機質な音
部屋の壁にかけたままの
時代遅れの時計の秒針の音

耳障りな静寂の音

耳をつたって脳に流しこむ音楽は
なんだってよかった
馴染みの邦楽でも
流行りの洋楽でも
なんでもいいから音を楽しむふりをしていた

そうでもしないと耐えられなかった
一番聴きたい音は
もう二度と聴くことができない

一度だけでいい
もう一度この耳で聴かせて
イヤホンを外して耳を澄ませる
あなたの声を
もう一度聴きたい

儚い光

「儚い光」
 (2026年3月30日作)

シャボン玉はどうして
すぐに消えてしまうの?
――消えるからいいんだよ

桜の花はどうして
すぐに散ってしまうの?
――散るからいいんだよ

人間はどうして
すぐに死んでしまうの?
――死ぬからいいんだよ

限りある輝きだからこそ
人はその輝きを慈しむ
今しか見れないものだからこそ
かけがえのない存在として愛するのだ

のぞみ

「のぞみ」
 (2026年3月25日作)

やさしいせかいに わたしはすみたい
だれからも
いじのわるいことを いわれたりされたり
することのないような
やさしいせかいに わたしはすみたい
だれにたいしても
やさしくありつづけ ひとのいたみが
わかるような
やさしいせかいに わたしはすみたい

つみのないひとや どうしょくぶつが
きずつけられることのないような
ころされることがないような
そんなせかいで わたしはいきたい
たとえ むりだとわかっていても
そんなせかいを
わたしはのぞむ

折り鶴の中に

「折り鶴の中に」
 (2026年3月23日~24日作)

※詩ではなく短い物語です


昔優しかったおばあさんは
年を取るにつれ荒んでいった
大家族を養うには
その家はあまりにも貧しかった
口減らしの対象となったのは
おばあさんだった

おばあさんの息子は
おばあさんの軽い体を背負って
姥捨て山へ登っていく
道すがら、おばあさんは
「やい この親不孝者」
「今まで育ててやった恩を忘れたか」
と憎まれ口ばかり叩いている
息子は重い足取りで
口をつぐんだまま山を登っていく
踏みしめた枯れ葉の乾いた音と
冷たい向かい風が体と心に沁みこんでいく

山の山頂に着いて
息子はおばあさんを地面におろした
おばあさんはそっぽを向いて
「あんたの顔なんか二度と見たくない
 さぁ とっとと帰っておくれ」
と、息子と目を合わせず言った
息子はおばあさんに言われたとおり
山をおりていく
淡く小さな雪が舞い散る中
木枯らしに背を押され歩いていく
途中、何度も振り返るのを
我慢しながら下山した



おばあさんを棄てた数日後
ぼろぼろの家の片隅に
折り鶴がひとつ落ちているのを息子が見つけた
がさがさして色褪せた桃色の折り鶴だった
折り鶴の羽の部分には
「ありがとう」と書かれていた
試しに折り鶴を解きほぐしていくと
色がついていない白紙の部分に
何かが書かれていた
「私を棄てても私はあんたを恨まないよ
 あんたは私の自慢の息子だよ」
それはおばあさんの筆跡だった
そのときに
ようやく息子は理解した
おばあさんが年を取るにつれ
すげない態度をとるようになったのは
全部おばあさんの演技だったということに
おばあさんは自ら買って出て
口減らしの第一候補になろうとしていた
息子の罪悪感を少しでも軽くするために
意地の悪い性格を装っていたのだ

息子は折り鶴だった紙を片手に
姥捨て山へと駆けていった
山道には雪が積もっていて
息子は何度も転びそうになった
そしておばあさんを棄てた場所へ辿り着いたとき
おばあさんはぐったりと横になっていた
おばあさんの体じゅうに降り積もった雪を
息子の手が振り払う
おばあさんの体も
随分冷たくなっていた
息子は大きな声で
「かあちゃん かあちゃん」
と、おばあさんを呼んだ
おばあさんは微かにまぶたを持ち上げて
息子の姿を認めると
微かに笑みを浮かべた
その表情は、昔息子がよく目にした
優しかった頃のおばあさんの微笑みだった
息子は涙を流しながら
冷えきったおばあさんの体を抱いて
何度もも何度も「ごめんな」と言った
おばあさんは最後の力を振り絞って
息子の手を握り
「泣くんじゃないよ 一家の大黒柱だろう」
と、かすれた声で囁いた
そしておばあさんはこと切れて
握っていた手と手が離れた
おばあさんの亡き骸を抱いたまま
息子は声をあげて泣き続けた



おばあさんがいなくなった家の中
息子が使っている箪笥の中には
今もまだあの折り鶴が残っている
折り鶴は「ありがとう」の羽を広げて
いつも息子を見守っている