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私が今まで書いてきた詩を掲載しています。 無いとは思いますが、無断転載(盗作)、複製等は禁止です。 閲覧者様の暇つぶしになれたら幸いです。

晩夏

「晩夏」
 (2023年8月30日作)

夏が過ぎ去っていくことを
ヒグラシが告げている

通り慣れた帰り道が
見知らぬ路地裏に迷い込んだり
見慣れた神社のお稲荷様が
神隠しのように消えてしまったり
聞き慣れた豆腐屋の奏でるラッパが
不穏な兆しを伝えてきたり

今日が今日じゃないような
ここがここじゃないような
ぼくがぼくじゃないような

そんな気がして自転車から降りる
夕焼け空が灰色の雲に追い立てられている
きっともうじきにわか雨がくる
竹林が風に押されてざあっと響く
ぼくは急いで自転車をこぐ

夏の足跡が薄れていくことを
ツクツクボウシが告げている

はやく お家へ帰らなきゃ
夕立におそわれてしまう前に
夏が終わってしまう前に
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見切り品

「見切り品」
 (2026年6月5日作)

スーパーマーケットの見切り品のコーナーに
肩を寄せ合う食料品が
ちょこんと並んでいた
コーナーの中央には
「助けてください」
という切実なポップが書かれてある
買い手が見つからなければ
君たちはゴミとして処分されてしまうのか
と、思うと
段ボール箱に入った捨て猫を
見つけたような気分になる
私は見切り品のコーナーを
じっくりと見つめて
半額になったどら焼きを
ひとつだけ救出する
本当はみんな助けてあげたいけれど
今月の食費には限りがあるから
私は君たちのヒーローにはなれない

家に帰ってどら焼きを食べながら
他の商品は誰かが買ってくれたのだろうかと
思いを馳せる
どら焼きのあんこは粒あんで
甘さ控えめのしっとりとした味だった

地獄のマリア

「地獄のマリア」
 (2023年7月22日作)

いつの日か私が死ぬときに
私は天国へはいけないだろう
人に嘘をつき 人を欺き
人を傷つけ 人を見放した
死の闇の奥底は
針のようにとがった山や
泥のように地を這うマグマや
腐った果実の汁のような深い血の池
私の死の果てに待ち受けるのは
天罰ともいえる灼熱の地獄
神や仏にすがりつこうにも
私の両手は汚れ過ぎていた
念仏も聖歌も知らない喉から
うめき声だけが口の端を伝い落ちる

私の罪を許してほしいだなんて言わない
私の罰を取り消してほしいだなんて言わない
そんな戯言を口にできるような
立派な身分でないことくらい
こんなに愚かな私でも分かっている

地獄の業火が私の身を焼く
肉を溶かされ骨を刻まれ
地面で悶え苦しむ最中
一筋の光のように
脳裏に浮かぶのはあなたの顔
私を愛し、私を苦しませ、
ついには死にまで私を追いやった
それでもあなたの微笑は地獄でも
目がくらむほどに美しく光り輝いているのだった

郷愁

「郷愁」
 (2026年5月30日作)

学校の教室の机には
カッターで刻まれた相合傘
トイレの個室の壁には
誰に宛てたか知らぬ
愛の言葉と罵詈雑言
広い運動場にもプールにも
たくさんの生徒たちの汗が混じる

一年に一度
歩き慣れた校門から
生徒たちは飛び立っていく
皆が同じ教室で過ごした日々は
物語ではなくて
確かに存在していた過去
深い地層のように
君たちの心の奥に残り続ける

未来の君たちの脳裏に
そよ風のようによぎるその思い出は
今の君を形作った軸

うさこ

「うさこ」
 (2026年5月24日作)

薄い桃色で手のひらにすっぽり収まるサイズの
うさぎのぬいぐるみを持っている
名前はうさこ
幼い頃の私がつけた安直な名前
私はいつもうさこと一緒だった
ままごとをするときも おえかきをするときも
学校の宿題をするときも テレビを見るときも
そのやわらかな体に触れれば
傷つけられた悲しみも
どうしようもない寂しさも
幾分やわらいだように思えた
時は経ち 日々は忙しく
私はうさこをソファの上に置いたままにして
うさこに構う時間がなくなっていった
気がつけば私の年齢は
「いい大人」と呼ばれるような数字になっていた
気がつけばうさこもすっかり薄汚れていて
部屋のインテリアに似合わなくなっていた
「そんなおんぼろなぬいぐるみ、捨ててしまえ」
と、父が言う
「ぬいぐるみなんて捨ててしまいなさい」
と、母が言う
私は「そうだね」と言いながら
リビングのソファにいたうさこを抱えて
自分の部屋に持って行った
私は何度もうさこをゴミ箱に入れようとした
でも、できなかった
うさこはただの古ぼけたおもちゃじゃなかった
うさこは小さい頃から私を見守ってくれていた
私はほこりだらけのうさこを丁寧に手洗いし
晴れた日にベランダに干して
うさこをきれいにした
ちょっとくたびれているけれど
うさこはがらくたなんかじゃない
うさこは昔と変わらない茶色の丸い目で
今日も見守ってくれている
「いってきます」と、うさこに言えば
「いってらっしゃい」と、うさこは言う
「ただいま」と言う私に
「おかえり」と言ううさこ

ぬいぐるみという枠を超えて
うさこはもうずっと前から
私の家族になっていた