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私が今まで書いてきた詩を掲載しています。 無いとは思いますが、無断転載(盗作)、複製等は禁止です。 閲覧者様の暇つぶしになれたら幸いです。

空の彼方

「空の彼方」(2019年11月頃作)
 
幽霊なんていやしない
お盆だなんてまるで意味もない
お坊さんの退屈な読経と
慣れない正座でしびれる両足
「天国・地獄」そんなものない
命がつきれば全ては無にかえるんでしょう?
 
それなのに 無駄なのに
遺された私は空の上にあの世を夢見る
 
名を呼んでも答える声はないのに
抱きしめたくても、その身体はもうないのに
 
それなのに 無駄なのに
遺された私は空の上にあの人を思い描く
 
親戚同士でたわいない会話が交わされ
少し酔った叔父の長い説教が始まり
幼いいとこのかん高い笑い声が響く
たくさんの肉親がいる中
あの人の顔を探してしまう
トイレに行くふりをして宴から立ち去り
独り青空を見上げる
「幽霊でもいいから出てきなさいよ」
私はあの人に怒鳴りつけたい
心がはちきれんばかりに
あの人への言葉であふれかえっている
頬をつたう涙までもが
快晴の空の色に染まっていく
 
こんなときに私は信心深くもないくせに
「神様」とやらにすがりつきたくなる
そして「あの人をかえして」と
ひたすら懇願したくなる
振り乱した髪も崩れたメイクもそのままに
しぼり出すような声で
あの人の名を叫びたくなる
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わすれなぐさ

「わすれなぐさ」(2018年7月作)
 
「どちらさまですか?」
と、母は私に問いかける
田園に囲まれた特別養護老人ホームの一室で
私が見舞いに行く度に
母は私に問うのだ
「どちらさまですか?」と
「私はあなたの娘です」という言葉が
喉元までせり上がってくるのをこらえ
「通りすがりの者です」と
私は優しい嘘つきになる
「通りすがりの私」は笑顔を作り
母へひとつだけプレゼントを贈る
わすれなぐさの押し花がついた
小さい長方形のしおり
母はそれを手にとってあどけなく笑い
「あら ありがとう」と喜んでいる
そしてふと我に返って私の顔をしげしげと見つめ
「ところであなたはどちらさま?」と問う
私は本名を口にするのをぐっと我慢して
さらりと言うのだ
「通りすがりの者です」と
すると母はきょとんとして
再びしおりに目を向ける
「……あの子はどこにいったのかしら」
そう呟く母の存在が
こんなに近いのに果てしなく遠い
 
母から流れ落ちていく記憶の濁流
その濁流にのまれながらも
私は一枚のしおりを作った
 
ただひとつだけの想いをこめて
母に贈りたいこの花言葉
届かぬものと分かっていながらも
母に伝えたいこの花言葉
 
――私を忘れないで

白昼夢

「白昼夢」(2012~2018年あたり作)
 
実験用のマウスを
たくさんのたくさんのマウスを使い
科学者たちは
確信するのだ
「死とはただの無である」と
 
「『死とはただの無である』なんて
 わかりきっていたことじゃないか」
 
特定の宗教を持たぬ者は
物知り顔でそう呟く
それでも頭のすみっこで
死後の世界を思い描くときがある
神というものがあるのなら
すがりつきたくなるときもある
 
実験で死んだマウスたちの中には
一匹くらい変わりものがいるかもしれない
私たち人間が想像するような
「あの世」へと旅立ったものも
いるかもしれない
 
生きとし生けるものは必ず
いつしか息絶えるときがくる
たとえ「あの世」が存在しなくても
「あの世」を夢見てもいいじゃないか
幾千万のマウスを使って
科学者たちが正論をのべても
「あの世」を夢見てもいいじゃないか
 
「あの世」でしか会えない人と
まためぐりあいたいのだから
「あの世」でしか言えない言葉を
抱えたままで歩き続けてきたのだから
「あの世」を夢見てもいいじゃないか
 
「死とは無である」を
くりかえす科学者をしりめに
私は今日も青空をあおぐ
空のむこうで
あの人は私を見下ろし微笑んでいる
そんな甘い白昼夢のおかげで
今私はこの世界で生きている

もの

「もの」(2004年作)
 
死ぬということは
つまり
単なる「物」になることだと
理科の先生が澄まして言った
「生物」「動物」 生命あるものが
生きていない物になるのだ と
動かない物になるのだ と
まるで他人事みたいに
それじゃあ次のページを…
かわいた授業は続いていく
 
ほんの少し前までは
私と歩いて
私とケンカして
私と泣いたあなたが
今は息もなく横たわっている
 
ほんの少し前までは
私と話し
私と手をつなぎ
私と笑ったあなたが
今は触れることすら怖い
 
私と過ごしたあなたを
私を愛してくれたあなたを
パンでも焼くみたいに火葬場へと運ぶ
もとの形をなくしたあなたを
くすんだ白になったあなたを
無造作な箸でついばんで冷たい骨壺に入れる
 
死ぬということは
つまり
マニュアルどおりの儀式を済ませば
それで とりあえず かたづいていく
 
死ぬということは
つまり
食器棚から一つの茶碗を壊せば
それで とりあえず かたづいていく
 
小気味良い音をたてて黒板が鳴る
チョークからは涙のような粉が
ゆっくりとつたい落ちていく
 
 
私は
教科書の上に
つっぷした

流星群の夜

「流星群の夜」(2004年作)
 
夜空が
大粒の涙を
次から次につたわせる
 
その度に小さな人々は
あっと声をあげるものの
誰も
それを拭えることはない
 
天体望遠鏡を外に持ち出して
時計と夜空にかわるがわる目をやって
いまか いまか 
夜空が泣くときを待っている
 
星たちが燃えつきていく
人々は楽し気に指をさす
星たちが消えていく
人々はどっと歓声をあげる
星たちが死んでいく
人々は拍手をおくる
 
肩を寄せ合う恋人たちは
「ロマンチックね」
うっとりとする
まばたきを忘れた親子たちは
「ほらほら、あそこ」
大さわぎする
 
宇宙は息をひそめ
星々の弔いをする
夜空は
またひとつ涙をこぼし
人々はサーカスの観客になる