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私が今まで書いてきた詩を掲載しています。 無いとは思いますが、無断転載(盗作)、複製等は禁止です。 閲覧者様の暇つぶしになれたら幸いです。

巡りゆく時の中で

「巡りゆく時の中で」
(2020年9月27日作)

広い原っぱだったその土地は
やがて田畑になり
コンクリートで埋め立てられ
家が建ち 店が建ち
車が通り 電車が通った
そして あっという間に
駅ができ ビルが伸び
スクランブル交差点が混じり合った
かつてしんとしていた原っぱは
今や人間であふれる大都会

昨夜病院で老人が息を引き取った
今朝病院で赤子が産声をあげた
原っぱの風景がどんどん変わっていくように
町を歩く人の顔ぶれも
時代と共にどんどん変わっていく
出生届と死亡届
婚姻届と離婚届
市役所の戸籍や住民票も
紙切れ一枚でくるくる変わっていく

町の静かな遊歩道の片隅に
真っ白な綿毛をつけたタンポポが生えていた
かつて黄色の花びらを揺らしていたのに
花も姿形を変えて未来を見据えて凛としている
小さな子どもがタンポポを引きちぎって
綿毛に向かって大きく息を吹きかける
無限のような青空に
小さな綿毛が舞いながら飛ぶ
風にあおられてどこへ行くのだろう
綿毛を吹き飛ばした子どもは
楽し気にきゃっきゃと笑っている
綿毛もいつか花を咲かせる日が来るだろう
あの子どもも大人になって我が子を抱く日が来るだろう

目まぐるしく変化し続ける町の中で
命のバトンが受け渡される音が
今日もあちらこちらから響いてくる
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小さな耳が聴く音は

「小さな耳が聴く音は」
(2020年7月14日作)

雨が地面を叩く音
新緑の木の葉がこすれ合う音
閉めきった窓の外でびゅうびゅうと吹く風の音

小さな子どもは
どんな音も初めて聴く音

ビー玉が床の上を転がる音
テーブルに乗る幾つもの皿の音
朝に鳴くスズメと夕方に鳴くカラス

小さな子どもは
どんな詩人にもかなわない
素直な耳を持って音を聴く

小さな子どもが
唯一懐かしむ音は
母の胸で鳴り響くあの鼓動だけ
その音を聴けば
小さな子どもは
いつの間にやらすやすやと
心地良さそうに眠り始める
まるで胎児の頃のように
体を丸め 眠っている

みんなの空

「みんなの空」
(2020年4月7日作)


人々は忙しい
急いで出かける支度をして
通勤・通学のために足早に駅に向かう
空は澄んで透き通っているけれど
朝の空を楽しむのは
どうやらスズメだけらしい
チュンチュン高らかに鳴きながら
大空を羽ばたいていく


幼い子らは帰宅する時間
友だちと帰る道すがら
空に浮かぶ雲に指をさす
「あれはゾウだ」
「あれはキリンだ」
昼の空で遊ぶのは
どうやら子どもだけらしい
飛行機雲が見えた日には
子どもたちはますます目を輝かせる


やわらかなソファに座る老婆
読みかけの本を閉じて
窓から夕暮れの空を眺めている
だいだい色の空に
群れを成してねぐらへ飛んでいくカラス
夕方の空を絵画にするのは
もしかするとこの老婆だけかもしれない
どことなく寂しいけれど
ノスタルジックな一枚の絵


寒空の下 息を吐く少女
かじかんだ両手を胸の前で組み
満天の空を熱心に見つめている
星になった愛しい人を想いながら
石像のように微動だにせず祈り続けている
夜の空に亡き人を思い浮かべるのは
ひょっとしたらこの少女だけかもしれない
流れ星に叶わぬ願いを捧げる人は
この少女や私だけでなく
きっと大勢いるだろう
――あなたも その一人だろうか?

時を止めて

「時を止めて」
(2020年2月18日作)

光よりも速い速度で
流れていく時の中
私は時間を、この手で掴み取り
「今」というこの至福の時を
永久のものにしてしまいたい

熱く抱擁を交わすあなたと私
このぬくみを一生忘れないようにするために
私たちは一枚の絵画になりたい
綺麗な装飾が施された額縁の中
抱き合う二人は二度と離れることはない

時を止めて

過去も未来もいらないから
「今」というこの至福の時を
永久のものにしてしまいたい

母のうた

「母のうた」
(2020年2月9日作)

老人ホームに入居する日の朝
空はすっきりと晴れていた
私の心と真逆の美しい青が広がっていた

ワゴン車の後ろの席には荷物と私
運転席には私の息子が乗りこんだ

「シートベルト ちゃんとしてよ」
と、警告する息子に「ハイハイ」と生返事
いつから息子は私に命令するようになったのやら
昔はいたずら坊主で手のかかる少年だったのに
今 その息子の頭には白髪が無数に生え、
顔にはほうれい線がくっきりと刻みこまれている

老人ホームは いわば現代の姥捨て山ね
と、息子に皮肉を言いたくなった

車窓から見える景色が
見慣れた町から田んぼだらけの風景へと変わっていく
老人ホームに近づくにつれて
不穏になる心をなだめるように
小さな声で歌を歌った
それは息子によく聞かせた
なつかしい子守歌
小さな息子を背負いながら
何度も歌った子守歌

息子はこの歌を覚えているだろうか?
ちらりと前方を見やると、
息子はハンドルを握りしめたまま
微かに震えているようだった

今の私はまるで
息子に背負われ山へ捨てられる
姥捨て山の老婆そのものね
と、そんな皮肉も思い浮かんだけど
私は何も言わなかった
無言の代わりに子守歌を歌った
これは年老いた私のささやかな抵抗
微かな嫌がらせ
意地悪なおばあさんになった私は
老人ホームに到着するまで
その子守歌をずっとずっと歌い続けていた