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私が今まで書いてきた詩を掲載しています。 無いとは思いますが、無断転載(盗作)、複製等は禁止です。 閲覧者様の暇つぶしになれたら幸いです。

「駅」
(2006年11月~2008年9月初旬作
  2025年11月25日・改)

ガタン
ゴトン
ガタン
ゴトン

電車が駅のホームに止まる

月曜日の朝
通勤ラッシュの頃の発車時刻は
毎週のように狂う

「十分遅れて運行しております」

駅員のアナウンスはくどくて、とても親切だ

舌打ちをするリクルートスーツの男
ひっきりなしに足踏みをする学生
澄ました顔で化粧をなおす女
誰もが「またか」「いつものことだ」と
言わんばかりで
「遅刻してしまいそう」
と、見知らぬ自殺者を咎めている

車掌は駆け込み乗車をする客に苛立ちながら
「出発進行」の合図をする

ガタン
ゴトン
ガタン
ゴトン

電車は走り出す
時間に追い立てられるように
窓が街を流す速度が次第に速くなっていく

ガタン
ゴトン
ガタン
ゴトン

重く冷たい車輪の上に
私たちは乗っている
憂いを背負っているのは
あの自殺者だけじゃない
憂いの重みに耐えかねて
ホームの端から落ちていく人は
数えきれないほどにいる

ガタン
ゴトン
ガタン
ゴトン

次が私にならないように
つり革をぎゅっと握り直す
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私のかけら

「私のかけら」
(2022年6月30日作)

いつか私が死ぬときに
「星になるなんて言わないで」
と、我が子が言う
だだっ広い夜空の地図の中で私がどこにいるか
分からなくなるからって

いつか私が死ぬときに
「風になるなんて言わないで」
と、我が子は言う
「千の風になって」というあの曲のように
この世から姿を消さないでいてって

あなたは無理な願いばかり並べて
私を苦笑させる
「命あるものは、いつか死ぬんだよ」
と、諭すように言っても
あなたは、いやだいやだと首を振る

私は星なんて美しいものになれないよ
私は風なんて大それたものになれないよ
私はいつか火葬場で屑のような白い骨になる
だから そのときは
しっかりと箸を持って
私のかけらを壺に入れてね
それがあなたに課せられた
私への最期の親孝行

「蝶」
(2024年1月8日~1月9日作)

友だちの家に行くと
家の壁に蝶の標本が飾られていた
まるでジュエリーボックスのようにきれいだった
だけど、野の花の近くを
ひらひらと羽ばたく蝶のように
美しいとは言えなかった

自由を奪われ
命を奪われ
土へかえることも許されず
標本の蝶たちはガラスの中で
ミイラのように見世物になっている

本当はもっと花の蜜を吸いたかっただろう
春の風と踊りたかっただろう
もう一匹の蝶と共に子孫を残したかっただろう

友だちは蝶の標本を指さして
あれやこれやと自慢げに説明しているが
それらの言葉は僕の耳を素通りしていく
僕は話を聞いているふりをして
うん、うん、と頷くばかりで
かたく拳を握りしめていた

流星の刻印

「流星の刻印」
(2024年7月10日作)

私たち命あるものは
死へと一直線に向かう孤独な流星

自分だけはずっと死なないのではないかと
のんきな幻想を抱きながら
闇を駆けて あっという間に燃え尽きる

死は そんなに先のことではない

燃え上がるこの精神と肉体をもってして
私は自分が生きた証を
この地球上に遺して消えたい
願わくば人の心を打つような
一編の詩を遺して
私はいきたい

「絆」
(2025年9月27日作・改)

数十年間
毎週土曜日、私は早起きをした
私は患者
あなたは精神科医

「よく眠れてますか」が
あなたが必ず私にする質問
黒ぶち眼鏡を指先でくいと上げながら

毎週顔を合わせるものだから
病の話を放り投げて
世間話をするのが普通になっていた
例えば私の親戚の話、好きな相撲取りの話
医師の学生時代の話、箱一杯みかんを買った話
時には愚痴や泣き言のようなことさえ
口にしていた私の医師

そして初秋を迎える頃
あなたは突然この世から旅立った

診察室だった部屋には
医師の遺影が飾られ、
たくさんの白い花々に囲まれていた
「患者と雑談するのが好きだ」というあなたの言葉が
私の心に優しいあかりを灯してくれる

長い長い月日をかけて
二人で育んだものが
もし絆といえるのならば
それは解きほぐれることのない、
固く結ばれたものであってほしい

せめて最期に一言、伝えたかった
心からのお礼の言葉を
私はあなたに叫びたかった