忍者ブログ

私が今まで書いてきた詩を掲載しています。 無いとは思いますが、無断転載(盗作)、複製等は禁止です。 閲覧者様の暇つぶしになれたら幸いです。

静寂

「静寂」
(2004年6月~2004年10月頃作)

あなたのために並べた食器が
いつもからっぽなのは何故でしょう
あなたのために用意した寝床が
いつまでもからっぽなのは何故でしょう
あなたの座っていた椅子に
埃が積もっていくのは
あなたの着ていた服に
箪笥の匂いが染みついていくのは

本が黄ばむように
記憶は色あせていきません
インクが切れるように
記憶は消えてはくれません

あなたのために並べた靴が
ずっと新しいのは何故でしょう
あなたのために用意した煙草が
一本も減らないのは何故でしょう

あなたのことならいつでも思い出せますよ
まるでここにいるかのように
あなたとの約束を忘れていませんよ
まるで昨日交わしたみたいに
でも
あなたの「ただいま」は
いつになったら聞けますか
私の「おかえり」は
いつになったら言えますか

電話は こんなに静かです
玄関は こんなに静かです
PR

HOME

「HOME」
(2003年7月~2003年12月中旬作)

パパ
プレゼントはもういらないわ
果たされることのない約束も
ただ お家に帰ってきてほしいだけなの

ママ
私の習い事をこれ以上増やさないで
合わぬ目で返す乾いた相槌も
ただ 笑っていてほしいだけなの

ひとつのテーブルをみんなで囲んで
ごはんを食べたいの
なんにもいらないの
ここにいたいの
ここにいてほしいの
どこへも行きたくないの
どこへも行かないで
だって ここが
私たちの家でしょう?

最愛のあなたへ

「最愛のあなたへ」
(2003年7月~2003年12月中旬作)

老いたあなたは
隠し通してきたあの人の名で私を呼ぶ

咲きほころんだ花々の中
あなたは無邪気な笑顔になった
私は車椅子を押して
とけてしまいそうなそよ風を見た

破れかけた古い写真に
楽しそうなあの人とあなたがいた
壊れてしまった愛ほど
美しいものはないのかもね

硬くざらついた指が
確かめるように私を撫でる
あなたは目を細めながら
しゃがれた声であの人の名を……

もう いいのよ
あなたは十分優しくしてくれた
申し分ない愛を注いでくれた
二人でここまで来れた
それが全部ひっくり返っても
かまわないのよ
だって私は幸せだったから
幸せに生きてこれたから

老いたあなたは
子どものように
洗いざらしの想いを語る
泣かないでと言った後で
あの人の名で私を呼ぶ
どこまでも愛しそうに あの人の名を……

六等星

「六等星」
(2009年9月~2012年10月中旬作)

私は花にはなりたくない
あなたの家の玄関の
冷たいガラスの花瓶の中で
少しずつ 少しずつ しおれて朽ち果てる
そんなものにはなりたくない

私は写真にはなりたくない
あなたの本棚のアルバムの
色褪せた写真の群れの中で
少しずつ 少しずつ ぼやけて忘れ去る
そんなものにはなりたくない

私は夜空の片隅で
瞬いている星でありたい
死してもなお光を遺し
過去の幻を空に映し出す

手が届かないほど
遥かかなたに浮かびながらも
その星は
消えることなく輝き続ける
あなたの頭上で
そして
深い深い胸の奥で

黄昏

「黄昏」
(2009年9月~2012年10月中旬作)

あたしはね
あんたがよちよち歩きの頃から
ずっと あんたを知っていた

「ももたろう」を読み始めて
「シンデレラ」のビデオを見始めて
運動会では四等になって
すきっ歯で三つ編みだった頃の
あの頃のあんたもよく覚えている

小鳥や猫の絵を描いて
あたしに見せるたび
あたしはあんたに
「うまいね」って褒めた
学校で習った童謡や
流行りの歌なんかを歌ったときも
「上手 上手」と、手を叩いたものよ

いつ頃からだろう
あんたが眉根にしわを寄せ
難しいことを考えているような
そんな素振りを見せ始めたのは

一体いつからなのだろう
利いた風な口をきくようになって
スパンコールのようにカラフルな錠剤を
持ち歩くようになったのは

得体のしれない魔物のように
あんたはすっかり変わってしまった
目の下のくまは日に日に濃くなって
肌は病的に青白い
あばら骨が見えるほど
平たくなった あんたの肢体

何気なくあんたの横顔を見ていたら
ふと あんたと目が合った
あんたは口元を歪めて
意味深な笑みを浮かべていた
あたしは何故かぎくりとして
そっぽを向いて
知らんぷりを決めこんだ

いつ頃からだろう
あんたのことが
まるで分からなくなってしまったのだ

あたしと二人でジャンケンをして
階段を駆けのぼる小さな子ども
あんただけ勝ち続けて
あんたの姿がどんどん遠ざかっていく

「パ・イ・ナ・ッ・プ・ル」
「チ・ョ・コ・レ・ー・ト」
「グ・リ・コ」

あたしはまたあんたのそばに
近付くことができるのかな

「ジャンケンポン」の
無邪気な声ばかり
夕焼け空にこだまする